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Cry Macho クライ・マッチョ

アメリカ映画 (2021)

映画の最大のポイントは、俳優として 映画製作者として偉大なクリント・イーストウッドの最後になるかもしれない作品。彼は、アカデミー賞で、製作・監督・主演した『ミリオンダラー・ベイビー』(2004)で作品賞と監督賞を受賞、ノミネートされた主演男優賞は惜しくも逃した。同じく製作・監督・主演した『許されざる者』(2004)でも作品賞と監督賞を受賞、ノミネートされた主演男優賞は惜しくも逃した。その他、ノミネートされた映画は、『アメリカン・スナイパー』(2014)が作品賞、『硫黄島からの手紙』(2006)が作品賞と監督賞、『ミスティック・リバー』(2004)が作品賞と監督賞。この偉大な映画人が、2014年の『アメリカン・スナイパー』、2018年の『運び屋』と、間隔を置き、2021年に発表したのが、90歳6ヶ月で製作・監督・主演したこの『クライ・マッチョ』。さすがに、加齢による極端に遅い動きは否めない。だから映画全体もスローに進み、中に含まれる逸話も少ない。そこに来て、ぱっとしない履歴の2人の脚本家が書いた問題の多い脚本が、映画全体の方向性を歪め、せっかくの出演作を、RottenTomatoesが57%、IMDbが5.7という屈辱的な低水準に陥れた。その罪は大きい。

時代は1980年のテキサス。ロデオで致命的な怪我を負い、母と子に先立たれ、荒れた生活のため牧場をクビになったマイクの質素な家を牧場主が訪れ、メキシコシティの元妻のところにずっと前にやった一人息子を取り戻すよう、半強制的に頼む。マイクは、自分が3人目で、前任者が失敗したことは知らされず、豪邸に住む元妻の所に行き、そこで初めて状況を知らされ、勝手に探すよう言われる。当時ですら人口1400万の広範な大都市の中でなぜか一発で正しい場所(違法な闘鶏場)に行ったマイクは、そこでマッチョという名の雄鶏で戦っているラフォに会い、警察の手入れを逃れた後で、話し合い、テキサスの父が会いたいと言っていること、彼が大牧場の持ち主だとこうこを話し、後者がラフォの気をそそり、一緒に行くことに同意する。それを知った元妻は、マイクに即座の帰国を命じるが、①母が嫌いで、②牧場で馬に乗りたいラフォは、マイクの車に隠れてメキシコシティを離れる。途中で、マイクに見つかり、なぜか同行を頑強に拒否されるが、これもなぜか急にOKする。途中で店に寄り、牧場主に成功の連絡をした後、元妻が後を追わせた悪漢にラフォが連れ去られそうになるが、戻りたくないラフォが妙案で逆に悪漢をとっちめる。そのあと、マイクの車が盗まれ、最初に歩いて到達した町で、窃盗癖のあるラフォが車を1台調達し、隣の町まで行く。そこの食堂で会ったのが、女主人のマルタ。マイクが気に入って、警察から守り、町の外れの礼拝所に無断で泊ったマイク達に朝食を持って行く。マイクは、道路の検問が厳しいので、しばらく警察署のないこの小さな町に滞在することにし、馬の調教をして喜ばれる。そんな中、2度目の電話を牧場主に掛けた時、彼にとってラフォが必要な本当の “極めて利己的であり得ない” 理由を聞かされ、ラフォには黙っていることにする。マイクとマルタの仲がより親密になり、ラフォもマルタの孫娘と親しくなると、何となくこの町から離れたくないようなムードが高まるが、そこに、例の悪漢が町に来たことを知ったマイクは、急きょ町を離れることを決意する。そして、その途中で、ラフォに、彼の父から騙されたことを話し、ラフォは父だけでなくマイクも嘘つきと決めつけ、車から逃げ出そうとするが、そこに連邦警察のパトカーが来て、麻薬の運び屋の容疑で徹底的に捜査される。容疑は晴れたが、車は前以上にボロボロに。ラフォは、マイクから人生について本音を聞かされ、父を許すことにするが、その時、悪漢から3度目の襲撃を受ける。幸い、闘鶏連勝中のマッチョの攻撃で形勢は逆転し、マイク達は悪漢の乗ってきた高級車を分捕って牧場主の待つ国境に向かう。国境で、ラフォを牧場主に渡したマイクは、マルタの元に戻る。

ラフォ役は、エドゥアルド・ミネット(Eduardo Minett)。2006年2月19日生まれ。映画の撮影は2020年の11月なので、撮影時14歳半。この映画で主演する前は、主としてメキシコのTVドラマに2014年から出演。

あらすじ

映画は、本編の1年前の1979年の場面から始まる。それは、調教師として長年働いてきたマイクが、牧場主のハワードによって解雇されるシーン。その時のハワードの言葉から、マイクが、All American Futurity(ニューメキシコ州で開催される全米最大のQH〔アメリカンクォーターホースと呼ばれる品種の馬(小型の強力馬)〕2歳限定戦)で5回優勝した “牧場主羨望” のヒーローだったのが、落馬で何らかのケガを負った後は、酒におぼれ、調教師として2流に成り下がって久しいことが分かる。マイクは、牧場の “若返り” のために、冷酷にクビを言い渡される(予告も、何の慰労の言葉もなく、即刻の退去するよう命じられる)。マイクは、その冷酷さに対する返礼として、「ハワード、俺はずっとあんたが 狭量で弱気で不甲斐ない奴だと思ってきた」と言い残して去って行く。そして、酒びたりの空虚な1年が過ぎる。部屋の壁には、ロデオで何度も優勝した時の記事が多くの額に入れて飾ってある。その中で映る最後の額には、「ロデオのスター、マイク・マイロ、テキサス〔Lone Star〕の試合で背骨を骨折」という、彼の輝かしい人生の終わりを告げる記事が入っている。そして、1980年、今度はハワードがマイクの家を訪れる。そして、自分の息子ラファエルの5-6歳の頃の写真を見せる(1枚目の写真、矢印)。そして、「彼は今13歳だ。彼をメキシコから連れ出し、ここで育てたい」と言い出す。その理由として、妻のレタがロクデナシで異常、ラファエルは虐待されて困っている。しかし、法的問題があり、自分でメキシコには行けないと話す。さらに、なぜマイクかについては、彼が妻子を事故で亡くして絶望していた時に、家まで失わないよう借金を立て替えてやったから。マイクは、旅費と必要経費、レタの住所と地図を渡され自分の車で出発する。そして、メキシコ国境を越え(2枚目の写真)、レタの豪邸に到着。パーティの最中だったが、場違いなカーボーイの服装に、ハワードからの密偵だと勘付いた用心棒によって、レタの部屋に連行される。マイクの持ち物をすべて見たレタは、説明をしようとするマイクを遮り、「あんた、私の元夫が送り込んだ第一号だと思うの?」と意外なことを言う。1人目は不快な男だったから刑務所に(3枚目の写真)、好感が持てた2人目は息子ラフォを見つけられずに帰国、マイクは3人目で老人だったので、ハワードの意図を訊く。マイクが、ハワードは好意的だと答えると、レタは、「ラフォは荒れてる。貧民街で生きてる動物。ギャンブル、盗み、闘鶏。もし、見つけられたら連れてって。彼はモンスターよ」と、言い捨てる〔最初の15分の要約なので、長くなった〕

初めての異国の大都市でどうやって探したのか分からないが、マイクは闘鶏場に入って行く〔①ラフォがなぜ闘鶏場にいると分かったのか? ②闘鶏は違法行為なので開催場所が周知されている訳でもないのに、なぜ闘鶏場まで行けたのか?〕。次のシーンでは、ラフォが、対戦相手の仲間から、「おい、ラフォ、準備いいか?」と呼びかけられる(1枚目の写真、矢印は、雄鶏)。ラフォの仲間の 「やれ、マッチョ、勝てるぞ」の声に送られ、ラフォは、雄鶏を抱えて 対戦相手と向かい合う(2枚目の写真、矢印はラフォ)。すると、会場の前に市警のパトカーが数台やってきて、拡声器で警告する。そして闘鶏場から逃げ出す男達を次々と拘束する。ラフォは山と積まれた木箱の陰も隠れ、それを見ていたのかマイクも隠れる。パトカーが去り、闘鶏場に誰もいなくなると、マイクは姿を現わし、「おい、ラフォ、出て来ていいぞ。警官はいなくなった」と呼びかける。「俺は家族の友達だ」との言葉にも返事はない。代わりに、ラフォの雄鶏が出て来て、マイクに捕まえられる〔映画では、この先、ラフォは常に雄鶏をしっかり抱いている。なぜ、この時に限って抱いていなかったのだろう?〕。マイクは、「いいか、クソガキ、出て来い。5つ数え、この鶏の首を捩じ切るぞ」と言い、カウントを始める。5まで言った時、ラフォが顔を出し、「雄鶏を返せ」と言う。「話が先だ」。「名前、知ってるんだな? ここだと どうして分かった?」。「お前の母さんが、どこにいるか教えたからだ」〔母は、曖昧にしか言わなかった〕。「もし、あいつが僕をあんたに売ったんなら、買ったあんたはバカだ。僕に触ってみろ、蹴っ飛ばしてやる、このじじい」。「一体 何を言ってる?」。「あんたは、あいつのパーティに来た変態の一人だ。性倒錯のじじいめ」〔この言葉の内容は、ラフォが母の部下から受けていた暴力(後で分かる)とは違う。なぜ、こんなことを言ったのか?〕。マイクは、誤解を解くために、「俺がここに来たのは、お前の父親のハロルド・ポークが会いたがってるからだ」と言う。すると、ラフォの態度が一変し、「あんた、カウボーイ?」と訊く(3枚目の写真)。「そうだ」。

2人は場所を食堂に移し、マイクが詳しく話をする。ラフォ:「冗談だろ?」。マイク:「冗談じゃない」。「父さんが、僕を欲しいのか…」(1枚目の写真)。「一人息子だからな」。「だから、あんたを送った?」。「そうだ」。「嘘だ。父さんは、何年も僕に会おうともしなかった。なんで、今になって会いたがる?」。「会いたい。それだけさ。彼は… 寂しいんだ」と言って、ハワードから渡された写真を見せる(2枚目の写真、矢印)。その写真を見せられても、ラフォの不満は解消しない。「僕に会いたいなら、なぜ電話しない? こんな “臭いじじい〔マイクはスペンイン語が分からない〕 なんか寄こして… ちっちゃな頃、父さんは特別な馬をくれると言った。ぜんぜんだ。嘘つきだ」。「少し遅くなったが、それだけだ。嘘つきにはならんだろう。埋め合わせする気だ。彼は大きな牧場を持っている。何百頭の馬もだ。うんざりするほど乗ってられるぞ。ロデオもやってる」。ラフォは、「何百頭の馬? ロデオ? ビッグボスなんだ!」と笑顔になる(3枚目の写真)。乗り気になったラフォは、気に食わなかったらすぐ戻ることを条件に、「OK。決めた」と言い、雄鶏のマッチョも一緒だと言い、「自分の物を取りに戻る」と言って立ち去る。

律儀なマイクは、レタの豪邸に行き、ラフォを連れて行くことになったと報告する。元よりラフォを手放す気などなかったレタは、「信じられない。どこで見つけたの?」と訊く。「あんたに教わった通り、闘鶏場だ」。「今、彼はどこ?」。「自分の物を取りに戻るとか言ってたな」(1枚目の写真、矢印はアウレリオ)。「あんたもバカね。彼、騙したのよ」。そう言うと、気まぐれな悪女は、指パチで用心棒を去らせ、マイクに白ワインのグラスを渡し乾杯させる。そのあと、ベッドに誘われたのをマイクが遠慮すると、レタは、「私の家で、私を侮辱するのね?」と、急に態度が威圧的になり、警察を呼んで誘拐で一生監獄にぶち込むと脅した上で、「ラフォは私のもの。だから、ここに留まる。分かった? 彼は私の所有物。誰にも奪わせない」と言い張る(2枚目の写真)。さらに、「彼の父親は逃げ出したの。私たちを置き去りにして」と一方的に言い、「車に乗り、メキシコシティを出て行くのに、きっかり5分あげる」と、即座の退去を命じる。そして、マイクが部屋を出て行くと、用心棒兼愛人のアウレリオに、「尾行して」と命じる。マイクは、言われた通りに、夜のメキシコシティを離れ、人里離れた丘陵地帯を走っていると、後部座席からいきなり雄鶏が飛び出してきて助手席に飛び降りたので、びっくりして道路際に急停車する。そして、後部座席を見ると、座席の前の隙間にラフォが隠れていて、「やあ、グリンゴ〔アメリカ人〕。僕、寝ちゃったみたいだな?」と、照れた顔で話す(3枚目の写真)。

レタとの約束を重んじるマイクは、ラフォに向かって 「出てけ」と命じる。「何だって?」。「出てけ!」。そう言うと、自ら車から出て、後部座席のドアを開け、「出てけ!」と言うと、腕を掴んで車から摘まみ出し、地面に投げ捨てる。そして、「出てけ、お前は行かん!」と言い放つ(1枚目の写真)。ラフォは、話が違うので、「誰が言った?」と訊く。「俺だ。お前の母さんだ」。「あんたと行く」。「ダメだ。お前は、連れて行かん」。「僕は、行くぞ」(2枚目の写真)。「お前は、ここにいろ」。「連れて行かなかったら、僕がどうするか知ってるか?」、「どうする?」。「警察に行く。僕のことを知らない町で、連邦捜査局に行き、テキサスからトラックで来た汚いグリンゴにレイプされたと 言ってやる」。「イカれてるな。奴らはお前を病院に連れて行くぞ。医者が、お前のケツの穴に手を突っ込んで調べたがったら、どうする? 嬉しくないだろ? とっとと失せろ。家に帰れ」。「なら、こんな風に足を引きずって歩く」、そう言うと、言葉通りに歩いて見せ、「あんたのトラックが、僕にぶつかって、逃げた。盗難車だったと言ってやる」と別の案を言うが、マイクは相手にせず、車に乗ろうとするが、運転席に置いてあった財布がないことに気付き、「財布を返せ」と要求する。ラフォは、「財布は返す。国境まで乗せていけ。そこまででいい、あとは、自分で国境を越える」と提案するが、マイクは拒絶。しかし、ラフォが、「父さんに会いたい」と言うと、なぜかマイクは態度を軟化させ、「分かった。車に戻れ」と言う〔最初に、意固地に拒否するのも、ラフォの母親が腐れ女だけに奇異に感じるし、態度の豹変も不可解。脚本が悪い(そもそも、巨大なメキシコシティで、いとも簡単に場末にいたラフォを見つけたこと自体、もの凄く不自然だった)〕。雄鶏はまだ助手席に居座ったままなので、マイクが、「鶏〔これが2回目だが、マイクは、雄鶏とも呼ばずチキンと呼んでいる〕をそっちに持って行き、脚を縛っておいてくれ。イスにクソをして欲しくないからな」と言うと(3枚目の写真)、ラフォは、「鶏じゃない。名前はマッチョだ」と名前に拘った上で、雄鶏を抱き抱えて後部座席に移す。

夜になり、マイクは車を道路脇に停めると、荒れ地に入って行き、焚き火を起こすと、その脇で夜を過ごそうとする。ラフォが、「なんで、僕らはトラックで寝ない?」と訊くと、「ここなら、広々とした場所で寝られるんだぞ」という返事(1枚目の写真)。マイクは、雄鶏の眼の様子が変なのに気付き、直してやる〔ラフォは、いつもマッチョをそばに置いているのに、マッチョはなぜ焚き火の反対側のマイクのそばまで行ったのだろう? これも、ワザとらしい〕。それを見て感心したラフォは、「あんた、獣医〔veterinario〕なの?」と訊く。獣医はスペイン語だったが、アメリカ英語の “veterinarian” とほぼ同じなので、マイクも理解して、「そうじゃない。動物が好きなだけだ」と答える。しかし、マイクは、決して雄鶏をマッチョと呼ばない。それに不快に思ったラフォは、盛んにマッチョが強いことを自慢するが、マイクから、「テキサスに行ったら、そのマッチョのたわごとは全部忘れるんだ。誰も好きじゃない」と注意される(2枚目の写真)。そして、それ以上に重要なのは、マイクが、ラフォの背中の痣に気付いたこと。「路上で暮らしてるからか?」。「時々は。でも、家に帰った方がひどい。ママは僕を嫌ってる。知らない男を、今日連れ込むと、明日には、また別の男だ。そんでもって、『伯父さん』と呼べと言う。僕が、『何人おじさんって呼ぶんだ?』と訊いたから、嫌われた」(3枚目の写真)「アウレリオはムショにいた。ヤクを売り、ママにも渡す。一度、唾を吐きかけてやったら、『行儀を教える』と殴られた。『ママと寝てる奴が、僕に行儀を教えるな』と言ってやった。もう うんざりだ。マッチョで何ペソか稼げるから、好きなことができる。路上じゃ、誰も信用できない。だけど、家にいるより安全だ」〔この言葉で、マイクはラフォに同情し、以後はラフォに優しくなる〕

翌朝、マイクが北に向かっていると、パトカーが何台も止まって検問をしている。そこで、マイクは未舗装の脇道に入って行く。そして、何とか小さな町まで辿り着き、食堂に入る。マイクは白ビールを注文し、ラフォは、「僕には黄色〔Amarillo〕」とウェイターに言う(1枚目の写真)。マイクが、「アマリーリョて何だ?」と訊くと、「別に、ただの飲み物さ」と答えたので納得すると、ウェイターが持って来たのはテキーラの瓶。さっそく突き返され、オレンジジュースに変更させられる。注文が済むと、マイクはすぐに席を立ち、店の外の公衆電話からテキサスのハワードに電話する。「子供を見つけた」(2枚目の写真)。「すごい! 偉いぞ!」。「容易じゃなかったが、そっちに向かってる」。「お前さんに頼んで正解だったよ」。「あんたが、ここに送った2人とは違う。ありがたいことにな。途中で電話する。俺には、正直にしてくれよ、分かったか?」。電話を終えて窓から中を見ると、ラフォが、コップを取り換え、白ビールを飲み干しているのが見える。戻って来たマイクは、「赤くなってるぞ」とラフォに声を掛けると、ジュースを飲んで、「旨いメキシカン・ビールだな」と言う。叱られなかったので、図に乗ったラフォが、「帽子、かぶらせてくれる?」と頼むと、「ダメだ」と拒否される。「どうして?」。「これはカウボーイ・ハットだ。お前はカウボーイじゃない」(3枚目の写真)。

先に店を出たラフォは、ここまで追いかけてきたアウレリオに捕まり、「助けて、マイク!」と叫ぶ(1枚目の写真、矢印はアウレリオ)。マイクが、「貴様、何してる?」とアウレリオに訊くと、「こいつに構うな。お前のもんじゃない。母親が警告したハズだ、グリンゴ、意地をはるな! これが最後のチャンスだぞ」との返事。マイクは、このチンピラの顔に一発お見舞いし、アウレリオはあまりの痛さにラフォを離す。そこで、卑怯なチンピラは、駐車場にいた10数人の地元の男達に向かって、「グリンゴに俺の息子を連れてかれる! 俺を殴りやがった! 助けてくれ! 奴は武装してる!」と声をかける。心配になったマイクは、「あいつ、何て言ってる?」とラフォに訊く。ラフォは、翻訳なんかしてる場合ではないので、自分から男達に呼びかける。「そうじゃない。あいつの言うことを聞かないで。僕を誘拐する気だ。頭がおかしい」。「ガキの言うことなんか聞くな」。ラフォは服をめくって背中の虐待の黒痣を見せ、「見て!」と言う(2枚目の写真、矢印は黒痣)。これで、有罪は決定。大勢の男達がアウレリオに向かって行き(3枚目の写真、矢印はアウレリオ)、アウレリオは車に押し付けられ、制裁を受ける。それを見たマイクは、「行こうか」とラフォに声を掛け、後部座席から助手席に昇格させて出発する。「よくやったな、坊主」。

マイクは道路際に車を停め、2人は、荒れ地に座って昼食。ラフォが、2個目のトルティーヤを勧めても、「気分が良くない」と断られる。ラフォがそれを聞いて笑うと、マイクは 「なんで笑う? お前らメキシコ人は、俺たちグリンゴが汚い水で病気になると、いつも笑う」と反論。ラフォ:「汚いのは水じゃない、あんただ。僕らは飲んでも健康。あんたらは飲むとトイレで死ぬ」(1枚目の写真)。マイクは、腹を下しそうになって、草むらに行くが、ラフォは、「気分が良くなるものをあげるよ」と言って、葉のように薄いサボテンを1枚折り取るとマイクに渡す。こうして、気を取られている間に、車のドアがバタンと閉まる音がして、マイクの車が盗まれる〔1台の車に2人が乗ってやってきて、1人がマイクの車に乗り移り、そのまま盗む〕。ラフォが追いかけるが、間に合わない。マイクが道路に出た頃には、2台の車は遥か遠くに消えて行く(2枚目の写真)。それを見ながら、ラフォは、「くそ泥棒め〔Malditos rateros〕」とブツブツ(3枚目の写真)〔この映画には、スペイン語の部分に黄色の英語字幕が刷り込まれている。しかし、それは2割ほどの台詞に対してで、かつ、必ずしも正確とは限らない。ここでは、スペイン語字幕を使って未表示の部分もすべてカバーする〕

2人は 何とか歩いて次の町に辿り着く。ラフォ:「どうするの?」。マイク:「交通手段を確保しないと」。ラフォ:「服もね。アメリカ人らしくない服を着ないと。みんなに、『グリンゴだ』って見られる」(1枚目の写真)。マイクは、目の前にあった店屋に入って行く〔財布は、車の中に残していかなかったとみえる〕。ラフォは、どこかに行く。マイクが、派手なジャンパーを着て店から出てくると、ラフォは1台の車に寄りかかってマッチョを撫でている。そして、マイクに気付くと。「見ろよ、マッチョ、グリンゴが入っていって、メキシコ人になって出て来たぞ」と雄鶏に向かって言う。マイクは、ラフォに、ラフォのジャンパーを入れた買い物袋を渡す(2枚目の写真)。ラフォは、「ありがとう」と言うと、寄りかかっていた車のドアを開け、「出発しよう」と言う(3枚目の写真)。「これ何だ?」。「交通手段だよ」。「交通手段だ? どこで手に入れた?」。「見つけた」。「でたらめ言うな」。「ここに置いてあった。だから、誰も要らないんだと思うよ」。「そうか? 誰も乗ってなかったんだな?」。「次の町で手放そう。ちょっと借りるだけさ。メキシコじゃ みんな仲良し。あんたが貸し、僕が貸し、僕らが貸し、みんなが貸す」。「そうか」。こうして、マイクは、少しメキシコ人らしくなって、無断で借りた車を運転して、次の町に向かう。

マイクは 次の寂れた町で車を停め、ラフォとマッチョを連れて町を散策し始める。すると、前方に連邦警察のパトカーが停まったのが見えたので、すぐ右にある食堂に入る(1枚目の写真)。店の女主人が、「何でしょう?」と訊く。ラフォは、「店、やってる?」と訊く。彼女は 「もちろん」と言って席を指す(2枚目の写真)。マイクは、「俺はコーヒー、彼には店にあるものなら何でも」と言い、ラフォは、「彼にはコーヒー、僕にはメニューを」と訳し、指示された窓際の席に座る。すると、ブラインドが半分開いた窓から警官2人が店にやって来るのが見える。女主人は、マイクの前にコーヒーを置くと、外の様子を見て、店のドアまで行くと、「ABIERTO(開店)」の板を、裏返して「CERRADO(閉店)」にし、ドアのロールスクリーンを下げて警官が入って来ないようにする(3枚目の写真、矢印は警官2人)。そして、2人に向かって 「変ね、連邦警察がここに来たことなんかないのに」と言い、ラフォは 「彼女、変だって。連邦警察がここに来たことはないって」とマイクに通訳する。そして、女主人に 「ありがとう」と言い、女主人はマイクに、「もっと?」と訊く。意味の分からないマイクは、「どうもありがとう」と言い、ラフォは、「うん」と答える。次のシーンでは、テーブルに、2人分の料理が出され、片付けに来た女主人に、ラフォが 「ありがとう、とてもおいしかった」と言い、女主人が 「気に入って良かったわ」と言う。

マイクは、「ここで、ちょっとシエスタするからな」とラフォに言う。「疲れた? じいさんは昼寝するんかい?」と訊き、マイクは 「その通り」と言うと、カウボーイ・ハットを目深にかぶる(1枚目の写真)。しばらく時間が経過し、マッチョのコケコッコーでマイクの目が覚める。テーブルにはマッチョだけで、ラフォはカウンターで、皿を拭いて女主人を手伝っている。そこにマイクがやって来ると、女主人が笑顔になり、「いびきかかないのね。気に入ったわ」と言う(2枚目の写真)。それを、ラフォが通訳し、マイクは 「そうか… 俺、ここで何か失敗したか?」とラフォに訊く。「うん。彼女に、なぜ連保警察が僕らを捜してるか訊かれたんだ。だから、僕、あんたが僕の父さんで、キチガイ病院から逃げ出した。だから捜してるって話した」。「彼女は、納得したか?」。「信じなかった。だから、あんたがテキサスの父さんの所に連れてってくれるのを、母さんが反対したって話した」。「じゃあ、ほんとのことを話したんだな。お前は、誰も信じないんじゃなかったのか?」。「そうだよ」。「だが、彼女は使用した?」。「うん。なんとなくね」(3枚目の写真)。「そうか、そろそろ行かないとな。セニョーラに、ありがとうと言ってくれるか?」。「セニョリータだよ。未亡人なんだ」。ここで、女主人が、「マルタ」と名乗る。「私の名前、名前、マルタ」。「マイクだ」。「ええ。彼 言う」。ドアに向かう2人に向かって、マルタは 「気を付けて」と言い、ラフォを抱き締める。振り向いたマイクは、片手を上げて別れを告げ、マルタも片手を上げてそれに応じる。

一旦は、車で町を出た2人だが、道路際にまたパトカーが停まっている。そして、その向こうには、マイクがテキサスから乗ってきて、途中で盗まれた車が置かれ、盗んだ2人が逮捕されている。その前を無事通り過ぎたのに、なぜか、マイクは戻ることにする〔Uターンはできないので、その場を通り過ぎるしかないが、それならばさっきの町に戻る意味がない。ここも、脚本がおかしい〕。マイクが、野宿する代わりに選んだのは、町の入口にあった小さな礼拝堂。カトリック教徒のラフォは、マイクがここで泊まると言うと、「ここがどこだと思ってるの? マリア様の礼拝堂だよ。眠っちゃいけない」と反対する。マイクは、「マリアは気にもしないさ」と、全く気にせず、「お休み」と言って眠ろうとする。ラフォが、「神様、信じてる?」と訊くと、「さあな、坊主。そうかもしれん。多分な」と曖昧に答える。しかし、「カトリック?」との問いかけには、はっきりと否定。「神を信じてて、カトリックじゃないなら、彼ら〔they〕はあんたを信じないよ」〔“they” って何のこと? 唯一神だから “he” じゃないとおかしい。台詞ミス?〕。「何だと? 彼はえこひいきするのか?」。この言葉で、ラフォは 「僕らは皆 神の子だ」と、言い方を変える。そして、その話の延長線上の話題として、「あんた、子供いるの?」と訊く(1枚目の写真、背景は単純なステンドグラス)。「おらん… いや、いたんだ」。その後の会話で、マイクには息子がいたが、数年前に〔some years back〕交通事故で妻子共に死に、以来、荒れ狂い、酒に溺れ、正気を失ったと話す〔数年前? この年なら、ひ孫がいてもおかしくないと思うのだが…〕。マイクが、朝起きて礼拝堂から外に出ると、ベンチの上に2人分の朝食が置いてある(2枚目の写真、矢印)。マイクが道を見ると、食堂の女主人のマルタが帰って行くのが見えたので、指笛を吹く。それに気付いたマルタは、振り返って手を振る。マイクも、笑顔で片手を上げる。マルタは礼拝堂まで戻ってくる。マイクは、礼拝堂から出て来たラフォに、「見てみろ。夢みたいだ」と言うと、マルタには、「どうして俺たちだと分かった?」と訊く。その意味が分かったとは思えないが、マルタは、ラフォに向かって、「ロウソクに火を点けに来たら、彼の車が見えたの」と説明する。ラフォは、それを翻訳する(3枚目の写真)。「そうか。ありがとう」。「ありがとう」。「食べてね」。

食事が終わった後、マッチョと遊んでいたラフォは、車の下を覗いて油が漏れているのに気付く。それを確認したマイクは、「この町に慣れた方がいいぞ。しばらくここにいることになる」と言う。そして、2人で郊外に向かって歩いて行くと、囲いの中に十数頭の馬が入れられている。そのうち1頭の馬は、暴れて立ち上がっている(1枚目の写真)。店の主人は、「このクソ馬め」と罵る。マイクは、「大丈夫かね?」と声を掛ける。幸い相手は英語が話せ、「この馬は売り物だ。買わんかね?」と、相手が素人だと思って誘いをかける。マイクは、「左の尻にケガをしてる。それに、少し荒っぽい。実際、あんたの馬は、全部、少し荒れてるな」と指摘する。店の主人は、「駆り集める時に、ケガするんだ」と言う。「野生馬か?」。「ああ、捕まえただけで、馴らしてない。荒っぽいから、誰も乗れない」。「乗れないような馬を売るのは難しい。「ああ、その通りだ」。「俺たちなら、何とかできる」。そして、マイクが荒れ馬に乗って、暴れるのをやめさせる(2枚目の写真)〔スタントマン〕。そして、マイクがおとなしくさせた馬にラフォが乗り、乗馬の練習(3枚目の写真)。ラフォが上達するだけでなく、マイクが次々と出す指示に従ってラフォが馬を動かすので、馬の訓練にもなっている。

その日のうちか、次の日か、マイクが籠を持ってマルタの店に入って行く。「閉店」中なので客はおらず、代わりにマルタの孫たちがテーブルの上でお絵描き。マイクは真っ直ぐに奥のカウンターに向かうと、持って来た籠をその上に置いて、「贈り物だよ、セニョリータ」と言う(1枚目の写真、矢印は籠)。マルタは、「カフェ?」と訊く。そこに、ラフォも入って来る〔もちろん、マッチョも一緒〕。そして、マイクと同じように、孫が2人いるテーブルに座る。マルタは、コーヒーをマイクの前に置く。マイクは、「ありがとう」と言った上で、「お礼に肉を持って来たんだ。来たのは、そのためだよ。タダで食事をするためじゃないない」と言う。それでも、食事を出す用意をしているマルタに、ラフォは 「好意へのお礼だから、食べるつもりじゃないんだ」と言うが(2枚目の写真)、マルタは 「私は自分がしたいようにする。誰にも、私のすることを指示させない」と答え、それを聞いたラフォは、「彼女、好きなようにしてるんだって」と簡略化して伝える。マイクが、「あんたの子かね?」と訊き、それをラフォが訳すと、「いいえ、私の孫娘たちよ。私の娘と義理の息子は病気で2年前に亡くなったの。私の夫も」と答え、ラフォは、「孫だって。娘は病気で死んだ。義理の息子も。彼女の旦那も。同じ病気で。2年前。今は、独り。あんたと同じ」と、マイクに伝える。「気の毒に」。マルタは、子供たちを遊びに行かせ、3人だけになる。すると、それと入れ替わるように、「閉店」を無視して 副保安官が入って来る。マルタは、「何なのディアス? 閉店中よ」と、冷たく言い放って、入口まで行く。「ここで何が起きてるのか知るのが、俺の仕事だ」(3枚目の写真、矢印)。「保安官のつもりなのディアス? あんた ただの副じゃないの。それも、伯父さんのお陰で。この町には警察署すらないのよ。今すぐ出ていかなかったら、ここじゃ何も食べさせないから。出てって!」。何が起きたのかマイクに訊かれたラフォは、彼流に状況を知らせる。マイクは、「次は、どうなる?」と心配する 。

次のシーンは、90歳のクリント・イーストウッドが実際に馬に乗る “ある意味 一番重要” なシーン(1枚目の写真)。DVDのメイキングでも、このシーンが目玉。姿勢も割と真っ直ぐで、昔を思い出させる。その次は、ラフォに対する、更なる乗馬指導。この指導は、すべて馬に乗ったマイクが行う。2人が馬から降りて、囲いの中を歩いていると、町の女性が山羊を抱いて寄って来て、「ラフォ、この人なの?」と訊く。ラフォは、「彼女の山羊が犬に襲われんだ。だから、僕は、あんたが動物に詳しいって話したんだ」と、マイクに説明する(2枚目の写真)。マイクは山羊をテーブルの上に置かせ、噛まれた傷を見て、「良くない」と言い、ラフォが、「悪い」と伝える。そこで、治療しようとすると、副保安官に遠くからじっと見られているのに気付き、「何とかなると思う」〔ラフォは、「良くなる。大丈夫」〕と言っただけで、その場では何もしない。

マイクが、ハワードに電話を掛けている。ハワードから、「3日か4日で十分なのに、2週間もかかるとは、何しとるんだ?」と不満をぶつけられたマイクは(1枚目の写真)、「少し時間がかかると言ったぞ」と反論する。ここから、ハワードの “弁解” が始める。かいつまんだ内容は、数年前、彼は、メキシコで不動産に投資したが、税金を払うのが嫌だったので、妻の名義で投資を行った。投資に見合う収入が得られることが確実になったので、投資額を回収したいが、そのためには妻の許可がいる。ラフォを確保していれば、妻も折れるだろうというもの(2枚目の写真)〔どうして、わざわざ、こんな下らない “事件” を導入したのだろう? こういう悪い脚本のせいで、せっかく “ご老体” が出演したにもかかわらず、低評価になってしまった〕。この “さもしい” 話をマイクから批判されると、ハワードは 「ガキは俺の息子だ。だから計画通り、国境まで連れて来てくれんか?」と頼む。マイクが電話を掛けていたのを見たラフォは、「僕の父さんだったの? 僕のこと、何か言ってた? 元気か、とか?」と、期待を込めて訊く。マイクは、「そうだとも。お前のために、最善を尽くしたいそうだ」と嘘を付き、それを聞いたラフォは、「ホント?」と喜ぶ(3枚目の写真)。そのあと、マイクがラフォに馬の頭絡〔頭部保定具〕の付け方を教え〔とても簡単〕、そのあとで鞍を固定する腹帯を締めさせるが、やり方が悪くて馬が暴れる。しかし、マイクは簡単に馬をなだめ、ラフォはますますマイクを尊敬するようになる。

朝、マイクが礼拝堂から出てくると、マルタがラフォに、「あなたたち、ウチに来なさいよ。もう掃除したから」と話している。ラフォは、マルタに急かされて、マイクに話しに行く。「マルタがこう言うんだ。僕らがここにいる間、彼女の家の裏にあるカシータ〔小屋〕に泊まりなさいって」(1枚目の写真)。マイクは、「それはできん。もう十分、世話になってる」と断るが、その翻訳を聞いたマルタは、「掃除は済んでる。それに、聖母マリアの家にずっと泊ってちゃいけない。ここは、ホテルじゃないのよ。もう決めたんだから」と言い、その翻訳を聞いたマイクは、「無駄な抵抗だな」と言い、マルタの好意を受け入れる。その日の夜は、マイクが料理をする。「料理の仕方知ってるのね」。そして、出来上がると、「いつも料理してくれるから、俺もしないとな。カウボーイは料理もするんだ」と言って、マルタに渡す(2枚目の写真、矢印)。ラフォは、「思うんだけど、彼女、あんたが好きなんだ」と言う(3枚目の写真)。「余計なことを言うんじゃない」。「あんたも彼女が好きなんだろ?」。マイクは、冗談で “ネックスライスド” のサインをする〔お前殺されるぞ〕。食事中に、マルタがマイクの手を握るので、マルタがマイクを好きなことは確か。

マルタは、マイクに タコスの皮の作り方を教えている(1枚目の写真、矢印)。ラフォは、マルタの孫の中で自分と同年輩の少女と仲良くなっている(2枚目の写真)。マイクは店のジュークボックスを修理して直し、小さな孫たちに絵本を読んでやる。「3匹の猫は、手袋をはめると、ケーキを食べました」。それを見てマルタは微笑む。そして、最後は、夕方の誰もいない食堂で、2人はダンスをし、キスもする(3枚目の写真)。

夜、小屋のベッドに横になったマイクに、ラフォは、「もし、父さんがテキサスに来て欲しくないなら、僕はここにいる」と、打ち明ける(1枚目の写真)。「そうだな」。「あんたも 一緒にいればいい」。そして、「僕の人生で最高の場所だ。多分、テキサスよりいいかも」とも。「そうかもしれんな」。しかし、この幸せな日々は突然終わりを告げる。アウレリオが連邦警察と一緒にやって来て、副保安官のディアスに話しかけている。「ここは、ちっぽけな町だろ? つまりだな、グリンゴがここに来たら、あんたにはすぐ分かる。だから、俺に知らせろ」(2枚目の写真、矢印はアウレリオ)。「もちろん」。「あんた、名前は?」。「ディアス」。「子供はいるか?」。「1人。なぜだ?」。「それはだな、もし俺がこの町でグリンゴを見つけたら、あんたのガキはひどい目に遭うってことさ。分かったか?」。それを見ていたマイクは、何が話されたのかは分からないが、あの悪辣なアウレリオが来たことで危機感を覚え、すぐにラフォの所に行くと、「ここを出なくちゃならん。来い」と言う。「何だって?」。「アウレリオが町に来てる。警官と話してた」。「女の子たちや、マルタはどうするの?」。「俺たちがここにいると、彼女たちに最悪の事態が起きるだろう」。2人は小屋の前でマルタ達の帰りを待つ。そして、戻って来ると、「マルタ、俺たち、行かないと。終わらせなければならん仕事がある」。マルタも少しは英語が分かるようになったのか、ラフォの通訳がなくても、「アディオスも言わずに行っちゃうの?」と訊く(3枚目の写真)。「あなたは、俺たちに最高に良くしてくれた。別れるのは実に辛い」。「分かるわ。辛いんでしょ?」。「だが、行かないと」。「あなたはいい人よ。知ってた? 覚えていてね」。マイクは、マルタの頬にキスすると、「いろいろありがとう」と言って背を向ける。「また、今度会うまでよね?」。マイクは、それには答えずに去って行く。その間、ラフォはずっと黙ったまま。

この町に1週間以上暮らしたマイクは、どこに、誰も使っていない車があるか知っているので、すぐに車の所に行き、運転席のドアを開ける(1枚目の写真)。そして、ラフォにエンジンを掛けさせる〔ラフォは、車の盗難に慣れている〕。ラフォは、国境が近いので、「国境で身分証を要求されたら、何て言えばいい?」とマイクに訊く。「何も言わんでいい。親爺さんが国境にいる。何もかも、うまくやってくれる」。すると、2人の後から、連邦警察のパトカーがやって来る。バックミラーでそれに気付いたマイクは、「あいつらを まかないと」と言うと、カーブでスピードを上げ、未舗装の側道に逃げ込み、しばらく進むと停車する。そして、マイクは、この前の電話でハワードが話したことを、打ち明ける。それを聞いたラフォは、「あんた、僕に嘘付いた」と、マイクを責める。「嘘じゃない。その時まで、全く知らなかったんだ」。この言葉を聞いても、「何て親爺だ。あんたもそうだ」と、嫌悪感をぶつける(2枚目の写真)。「あんたを信じるんじゃなかった」。「俺も知らなかった。それだけだ」。「あんたは嘘付きだ。大嫌いだ」〔ハワードの変な電話から、こんな変な会話が始まる。そして、どこまでも、マイクを許さないラフォの態度にも違和感がある。脚本の失敗が、こんなぶざまな事態を招いた〕。怒ったラフォは、「あんたなんか、刑務所で死ねばいい」と言って車から出て 走り出す。

そこに、さっきのパトカーが乗り付け、2人の警官が銃を取り出し、ラフォは手を上げる(1枚目の写真)。そして、1人の警官は車の中を徹底的に検査する。トランクに入っていたものは、すべて投げ捨てる。その乱暴なやり方に呆れたマイクが、「一体何を探してるんだ?」と訊くと、相手の警官も少しは英語が分かるので、「麻薬」と答える。マイク:「麻薬だと? どうかしてるんじゃないか?」。警官は、車内でライターを見つけると、押収して自分の物にする。マイク:「この間抜けども〔Jerk offs〕。ろくでなし〔Asshole〕〔幸い、警官は理解できなかった〕。次に、乱暴な警官は運転席に行くと、ビニールのシートをナイフで切り、中に麻薬が隠されていないか調べる(2枚目の写真、矢印)。マイク:「ひどいことする、クソ野郎だ〔Mickey Mouse prick〕」。英語を話せる警官が、「いつ、ヴェラクルス〔メキシコシティの300キロ以上東にあるメキシコ湾沿いの都市〕を出た?」と、頓狂なことを訊く。マイクは、「ヴェラクルスなんかには、行ったこともない」と否定する。シートを裂いた警官が、「麻薬はどこだ?」と訊く。ラフォは、「彼は、『麻薬はどこだ』と言ってる」と、マイクに説明する。マイクは 「麻薬なんかない。あんたら時間を無駄にしてる。他にすることがないのか? 無能な警官め」と怒る。麻薬がないと分かると、逃げた理由を追及する。そこで、ラフォは、「ホントのとこ、この人は僕の伯父さんなんだ。僕の父さんが重病なんで、テキサスまで連れて行ってくれるんだ」と嘘を付き(3枚目の写真)、馬の飼い慣らしでもらった小遣いを 警官に握らせる。汚職警官は、「分かった。父さんが良くなることを祈る」と言って、去って行く。

汚職警官が去ると、老齢のマイクが、荷物を拾ってはトランクに投げ込む。一番重そうなのは、後部座席のシート(1枚目の写真、矢印)〔重量は軽くしてあるのだろうが、90歳とは思えない〕。その間にも、マイクは、さっきの口論の誤解をなくそうと、「お前の父さんは、俺たち2人に嘘を付いたんだ。だから、もう愚痴るのは止めろ」と言うが、ラフォは、「あんたら2人とも、大嘘付きだ」は許そうとしない。しかし、マイクが、「分かった。この丘の向こうに自由がある。行くぞ」というと、ラフォは、一応、素直に車に乗る。車が動き始める、ラフォは、「あんたは、昔、タフだった。今は、弱い。かつては、強かった。マッチョだ。今は、空っぽだ」と蔑(さげす)むように言う(2枚目の写真)。「そうだ。昔はいろいろやったが、今はダメだ」。そう言うと、マッチョと言われたことに引っかけ、苦い経験から得た教訓を垂れる。「ど根性があることを示そうと、マッチョになろうとする奴らがいる。その行く末は何だ? 雄牛に踏み潰されるか、馬から50フィート〔15m〕も投げ出されるかだ。バカみたいだ。バカだけが、こんな仕事に就く。人生も同じだ。お前は、全部の答えを手に入れたと思うだろうが、年を取るにつれて分かってくる。何も手に入れてないことをな。それに気付いた時は、もう手遅れだ」(3枚目の写真)。「お前の親爺はいい人だ。俺たちは、人生で選択を迫られる。お前だってそうだ。どこに行きたい?」。「選択したよ、マイク。先に進む」。

その言葉と同時に、どうやって見つけたのか全く理解できないが、アウレリオの運転するメルセデス500E(W124)がいきなりマイク達の車にぶつかってくる(1枚目の写真)。3度ぶつかられた車は、道路際の斜面にぶつかって使い物にならなくなる。2人が車から降りると、アウレリオが、拳銃を向け、「おい、マイク。俺を覚えてるか?」とマイクに言い、次いで、「ラフォ、お前の爺さんを傷付けたくない。だから、俺と一緒に来い」とラフォに言う(2枚目の写真、矢印は拳銃)。ラフォが 「マイク…」と声をかけると、アウレリオは 「お前に行ってるんだ」と、相談を許さない。その時、雄鶏のマッチョが舞い上がり、アウレリオに襲いかかる(3枚目の写真、矢印はマッチョ)。アウレリオは拳銃を落としてしまい、それをすぐにマイクが拾う。そして、ラフォが、あっぱれマッチョを抱くと、マイクがアウレリオに拳銃を向け、「そこから動くな、くそったれ」と命じ、アウレリオの乗ってきたメルセデスに乗り込んで走り去る(4枚目の写真、矢印)。

“丘の向こう” と言っただけあり、車は、すぐに国境の侘しい検問所に着く(1枚目の写真、矢印はハワードの白い車)〔改めて電話をかけるシーンはなかったが、ハワードは、どこの国境検問所に、いつ頃着くのか、どうやって知らされたのだろう?〕。車から降りたラフォは、「ありがとう、マイク」と礼を言う。マイクが、「鶏を大事にしろよ」と言うと、鶏〔chicken〕には弱虫という意味もあるので、「チキンじゃない、マッチョだ」と言うと、「あんたにあげる」と、マッチョをマイクに渡す(2枚目の写真、矢印はマッチョ)。マイクは。「本気か? ひょっとしたら、土曜の夜のバーベキューで食っちまうかもしれんぞ」と冗談を言った後で、「俺が面倒を見る。お前も元気でいろ。俺たちがどこ〔マルタの家〕にいるかは知ってるだろ。必要なら来い」と言う(3枚目の写真、矢印はマッチョ)。ラフォは、もう一度、「ありがとう」と礼を言う。そして国境の向こう側で待っている父に向かって歩いて行く〔父が、何らかの手を打ったので、どちらの検問所も黙認する〕。ラフォは、途中で一振り返ってマイクを見ると、彼は、「じゃあな」と言い、車に乗り込む。ラフォは、父に抱き締められている(4枚目の写真)。

映画の最後は、マルタの食堂の前に停車したメルセデス(1枚目の写真)。食堂の中では、2人がダンスをしながら 熱いキスを交わす(2枚目の写真)。

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